コンディショニングの知識 |
自己管理の必要性
ひと昔前に比べて、日本のスポーツ現場では、選手の身体管理を中心に専門技術を駆使し
てサポートする治療家やトレーナーの活躍が目覚しくなってきています。あるレベル以上の選
手なら、こうした人たちのサポートを受けることが当たり前のようになってきています。それは大
変好ましいのですが、一方で、専門家に頼りすぎて自分自身で自分の身体を管理しようとする
意識の希薄な選手を作っているという事実もあります。
選手の中には、練習で疲労すればトレーナーやマッサージに身を委ねればいいと、短絡的に
考えている人も少なくありません。こうした選手は、最低限自分で行うべきクールダウンやスト
レッチングさえ十分に行っていないケースが多いのです。
最近、「チタンテープ」「キネシオテープ」「PNF」などのテクニックを、競技力向上や傷害の治
療の特効薬的存在として用いる選手が多くなってきました。優れた専門テクニックそれ自体の
導入は、技術者の理論と知識が確かで活用のTPOが整っていれば、勧められるべきです。し
かし、自分でできる基本的なトレーニングをおろそかにして安易にこうしたテクニックに頼り過
ぎるのはどうかと思います。
自分はなぜ疲れやすいのか、なぜ同じ部分が痛くなったり張ったりするのか、こうしたことに
素直に疑問を持ち、自分の体の特徴を知り、栄養学を含めた専門的な知識を習得し、競技者
としてより強くなる様に心掛けていただきたいと思います。(医務室に医師やトレーナーが在
室する場合は気軽に相談して下さい。)
障害発生に関する要因
【要因】 【助長する因子】
@筋力・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 筋力不足、不使用による萎縮(固定など)
A筋の柔軟性・・・・・・・・・・・・疲労、不使用、ウォームアップ、クールダウン不足
B関節の不安定性・・・・・・・・・靭帯損傷、初期治療の不適切
C身体組成(肥満)・・・・・・・・・・過剰な体脂肪の蓄積、相対的筋力低下(体重支持力低下)
Dアライメント(骨形態)・・・・・・・X脚、O脚、偏平足、外反母趾など
【予防対策の例】 【 効 果 】
@筋力トレーニング・・・・・・・・・筋力増加,関節の固定、体重支持、防御力
Aストレッチング・・・・・・・・・・・柔軟性の向上、疲労回復、
Bウォームアップの改善・・・・・柔軟性の向上、筋力増加
Cクールダウンの改善・・・・・・柔軟性・筋力低下の予防
D疲労回復・・・・・・・・・・・・・・疲労回復
Eテーピング・・・・・・・・・・・・・関節不安定性防止
F適切な初期治療とリハビリ・関節不安定性防止
G減脂肪(運動と栄養の改善)・消費エネルギーと摂取エネルギーのバランス改善
H適切なトレーニング法・・・・・
Iシューズ、姿勢など・・・・・・・
ウォーミングアップ
競技者は安静時の10倍以上のパワーを発揮できる能力を備えているのに、最大能力以下
のスピードでも、急に走り出すと苦しくなって走り続けられなくなります。これはエネルギー能力
を十分に発揮するためには、ある程度の時間が必要で、いきなり運動を始めても、すぐには1
00%の能力を発揮することができないからです。
これに対して、走る前にあらかじめ準備運動をしておくと、急に走り出したときよりも楽に走れ
ます。こらは、あらかじめ運動することによって、身体の諸機能が運動に適した状態になり、最
大能力を発揮しやすくなるからです。
体温上昇の効果
ウォーミングアップとは、元々体温を高めることを意味します。
一般的には、酵素の活性は温度が上がると高くなりますから、そういう意味である程度体温を
上げるというのは、化
学反応の速度を上げるのに有利になります。また、温度を上昇させると、血液によって運ばれ
てきた酸素のより多くが組織に与えられるのです。
酸素不足の減少
事前にウォームアップを行うと、運動初期の酸素摂取が容易になって、酸素摂取量の立ちあ
がりの勾配が急になります。その結果、運動初期の酸素不足は少なくなって運動中に利用で
きる有酸素エネルギーは増加するので、運動を行うには有利だと考えられています。
無酸素エネルギーの温存
ウォームアップをしたほうがしないほうより、最後の1分間の運動量が多く、ウォームアップは
運動のパフォーマンスを高めることが証明されました。これは、運動初期の酸素摂取量の立ち
上がりが速くなって無酸素エネルギーを温存することができ、その分を最後の1分間に放出で
きたためであると考えられます。つまり、ウォームアップをしていれば、利用できる量が決まっ
ている無酸素エネルギーを余り使わなくてすむので、最後にラストスパートができるというわけ
です。
ウォームアップの強度
ウォームアップによる血中乳酸濃度の増加(4mmol/g)によって、ウォームアップをしない場
合に比べて主運動中の血中乳酸濃度が上がりにくいのがわかっています。これは、生じた乳
酸をエネルギー源として利用し除去してしまう割合が高まったためであると考えられます。
ウォームアップの強度としては、血中乳酸濃度が若干増加するように、無酸素性作業閾値(A
T)あるいはそれ以上の強さの運動が好ましいと考えられます。
一般的には、軽い強度から始めて、だんだんと強度を高め、最後に強いものをやって、また強
度を戻して試合に備えると言う形だと思います。
ATとは
anaerobic thresholdの略で、無酸素性作業閾値とは、作業に必要なエネルギーを供給する
ために有気的代謝でまかなうことができないエネルギーを無気的代謝でまかない始めるという
意味である。
無気的(anaerobic)という言葉は無気的代謝を意味している。
閾値(thresold)とは変化し始める部分のことを言う。4mmol/gの無酸素性作業閾値
で呼気や血中乳酸の変化が生じる。訓練された男子ランナーでは3'20"〜4'00"/kmである。
主運動で用いる筋肉を事前に動かす
いうまでもなく、ウォームアップは試合で使う主働筋を使って、その筋肉にある程度乳酸をた
めておくとよいと思います。
試合までの休息時間
ウォームアップと主運動との間の休息時間が5分、30分と長くなるにつれて減少し、1時間
の休息をはさんだ場合にはその効果がほとんど消失しています。30分程度までの休息であれ
ば、その効果の減少は軽度にとどまりますので、できればそれ以内の時間に主運動を行うとよ
いでしょう。
もしそれ以上に時間があくようであれば、やや強めに、逆に間が短ければそう強くしなくてもよ
いと思います。これは乳酸だけに関してですが、心臓や肺の立ち上がりなどは、もっと時間を
あけたとしても、やるのとやらないのとでは、全然違うと思われます。
クーリングダウン
ハードな運動によって筋肉内に疲労物質が多く溜まっているために、筋肉が硬化し過緊張と
なり、柔軟性の低下とともに関節の可動域も低下、筋肉痛の発現や故障しやすい状態になっ
ています。
a.目的
○障害発生の予防
・疲労回復の促進
クーリングダウンすることで、筋肉内に溜まった疲労物質を、筋肉のポンプ作用により除去を
促進し疲労回復を早める。
・柔軟性の回復
運動で生じた筋肉の過緊張・柔軟性の低下・関節可動域の低下を回復させ、柔軟性低下に
よる障害の予防をする。
○体調を整える
疲労や柔軟性の回復を早めることで、その日の体調を整えることができ、慢性疲労の予防
ができる。また、より高いトレーニングの質と量が可能となる。
b.方法
・ジョギング
ゆっくりとしたジョギングを行うことで、体内や筋肉内に生じた疲労物質の除去を早める。
・体操
体調を整えるために整理体操を行い、全身の動きをなめらかにする。
・回復マッサージ
マッサージを行い血行を促進させることで、心身をリフレッシュする。
・回復ストレッチ
運動で生じた柔軟性の低下・可動域の低下をストレッチを行うことで、弾性の低下した筋肉を
徐々に伸ばし、柔軟性と可動域を回復させる。また、競技特性により特に使った筋肉に対して
は、入念なマッサージとストレッチを行う。
最後になりましたが、競技特性や個人差がありますので、自分自身にあった「ウォーミングア
ップ」と「クーリングダウン」を研究し、また、季節や気温・体調に合わせて調整して下さい。
ストレッチングとは
ストレッチング(stretching)とは柔軟体操の一種であり、"伸張法"と訳されている
「筋肉をゆっくり伸ばしていき、その伸張した状態を維持する」という、"static stretching
(静的伸張法)"と呼ばれ、従来の反動をつけて行うものはballisticまたはdynamic stretching
(動的伸張法)として区別されている。現在では、ストレッチングというのは前者の静的伸張法を
指す。
柔軟性とは
"ある関節(または関節群)の運動可能範囲"すなわち"関節可動域(range of motion:ROM)
の大きさである。ROMが大きいものは柔軟性が大きいことになる。
筋力を100%生かすためには力を大きな範囲(ROM)にわたって作用させる必要がある。柔軟
性(suppleness)はスタミナ(stamina)、スピード(speed)、筋力(strength)、技(skill)とともに"スポ
ーツのFive-S"と呼ばれ、スポーツにおける大切な要素とされている。
しかしただ単に関節を柔らかくしたのでは意味がない。全身のすべての関節を柔らかくしてし
まっては十分な筋力が発揮できない。また運動種目により必要とされる関節の動きが異なる
ので、各種目に応じたストレッチングを組み合わせるべきである。
胃の痛みやセリアック病
神経と筋の関係は
大脳皮質から出た運動指令は、脊髄を通り脊髄前角の運動神経細胞から出た運動神経に
より遠心性に骨格筋に入ってその収縮を指令する。この運動神経には2種類あり、α神経線
維は錘外筋線維(筋紡錘以外の大部分の筋線維で実際の筋収縮を生じて力を出す)、γ神経
線維は錘内筋線維(筋紡錘の中のみの筋線維で筋紡錘の感度を調整する)を支配する。
筋や腱の知覚神経は、腱ゴルジ器(腱のレーダーアンテナ)からΙbの、筋紡錘(筋のレーダ
ーアンテナ)からUとTaの神経線維が求心性に脊髄へ走る。
運動を行うということは、その部分の筋が収縮して体が動くということであるが、このときは大
脳の運動中枢から"体を動かす"という指令が出され、これが脊髄を下行して目的の運動神経
を刺激し、ここからα運動神経を介して筋が収縮する。
筋の使い過ぎで、その筋が過緊張している場合には、筋紡錘から常に刺激が中枢神経に送
られ、中枢神経も常に過緊張の状態におかれ、ストレスがたまってくる。したがってストレッチン
グで筋の緊張もをとることで中枢神経の緊張もとれることになる。
伸張反射とは
筋が過度に引っ張られると、筋の中にある筋紡錘という感覚装置(レーダーのアンテナの役
目)が働き、筋がそれ以上伸びて障害を起こさないように反射的にその筋を収縮させる。つまり
筋の伸び過ぎによる障害を防止するための一種の生体防御機構で、これを"伸張反射"と呼
ぶ。なお筋紡錘は、筋の伸張(静的γ神経線維)だけでなく伸張速度(動的γ神経線維)にも反
応する。
柔軟運動を行うときは、この伸張反射が生じないように行わなければいけない。すなわち、ゆ
っくりと引き伸ばしていき、軽い緊張を感じとるところで止め、決して"痛み"が出るほどには伸
ばさないことである。まして反動をつけて行ったのでは、筋紡錘が強く反応し伸ばすはずの筋
が急に強く収縮するために逆効果である。
リラクゼーション
リラックス(relax),リラクゼーション(relaxation)とは"弛緩する"という意味だが、運動生理学的
には"意識的に筋の不必要な緊張を取り除く運動の一種"と意味づけられている。さらに筋の
緊張を取ることにより神経や精神的な緊張も取り除こうというものである。
われわれが動作を行うときは筋が収縮しなければならないが、動作をしない休止状態では筋
はリラックスしていなければならない。緊張したまま(ストレス)では硬い筋(tight muscle)となり、
筋肉痛や肉離れなどの種々の障害を生じてしまう。また筋が硬いと関節可動域が狭くなり大き
な動作ができなくなる。
緊張して硬くなった筋の中の筋紡錘(感覚受容器、知覚神経の末端)から刺激が神経を通っ
てたえず中枢神経の方へ送られ続けており、神経や脳も過緊張にある。
したがって、筋をストレッチングするときは常にその筋を頭で意識しながら行わないと、脳や
神経のリラックスにはならない。"テレビやラジオを聴きながら"では意味がなく、現在どこの筋
をリラックスさせ、ストレッチしているかを常に意識しながら伸ばさなければいけない。
またこうすることにより神経と筋の連絡がスムースに行われ、本運動のときに体の動きがス
ムースになる。これは"ガンマ環(γ−loop)"〔運動神経細胞−遠心性神経線維−筋紡錘−求
心性神経線維(知覚神経線維)−運動神経細胞の環〕の働きをスムースにすることになる。
過使用症候群(over use syndrome)
自己の能力以上のトレーニングをし過ぎた結果生じるさまざまな体の障害をいう。種目ごとに
特徴ある過使用症候群があり、種目名をつけて呼ばれる。
体の動きはすべてが筋線維が収縮することにより生じる。筋線維は収縮後に元の長さにもど
る(弾性)が、使い過ぎにより弾性を失うと短縮して硬くなる。このときさらに強い力で収縮を行
わせると炎症や肉離れを起こし、筋断烈や骨の筋付着部の障害を生じやすい。特に腱はもと
もと伸張性と弾性が乏しい組織なので急に引っ張られると炎症や断烈などを生じやすい。
例えば長距離ランナーでは、主働筋(よく使う筋)は下肢後面の筋なので、長距離ばかり走っ
ていると下肢後面の筋のみが強化されて硬くなり、着地のときのショックを吸収できず、足底、
アキレス腱、膝、腰にショックが伝達され、足底筋膜炎、アキレス腱炎、ランナー膝、腰痛の原
因となる。さらに筋が硬いので急に強い力で収縮を行わせると肉離れを生じる。したがって、長
距離ランナーでは主働筋である下肢後面の筋のストレッチングを重点的に行わなければいけ
ない。
一方、短距離ランナーでは主働筋が下肢前面の筋群であり、この筋群を重点的にストレッチ
しなければいけない。
スポーツ医学と内科
日本選手は、練習量では世界と引けを取らない。足りないのはトレーニングの他に働かなけ
ればならない、勉強をしなければいけないので十分な休養が取れない。中国選手に比べて2
時間ぐらい睡眠時間が短い。栄養も少ない(鉄欠乏性貧血になったり、女子の場合骨粗しょう
症になったりする)。精神面のサポートが出来ていない。これらを克服すれば日本選手はまだ
まだ強くなれる。
誰でも出来るスポーツ検診
(聴診)家族歴、既往歴<突然死の予防>
小さい頃喘息をやったとか、リウマチ熱をやったとか聞いて、ノートしておく。医師に伝える。
家族で突然死した人はいないか?聞いておく。選手の人格がこういうところからわかる。
(触診)
筋肉に固い部分があるとか非常に柔らかい部分があるとか、脈も非常に早いとか遅いとかと
んじゃうとかそういうものをチェックする。
(視診)
走っている最中にフラフラしている、つまり運動性失調が起こっているとかうずくまったりす
る、こういう症状が起こったら運動をやめさせる指標だ。
指導者のチェック
脈拍・・・朝起きて、選手に布団の中で脈を計らせる。寝たままの状態で30秒間計って2倍す
る。毎日計る。普段40〜50の選手が、1分間に4拍多いと、その選手は熱があったり、練習
が出来ないほど疲労が蓄積している。場合によっては血尿が出ていることもある。
体重・・・起床時、排尿排便後、一定の時間で計ってもらうとよい。10g単位まで計れる体重計
がよい。合宿の時など、タメージを少なくするため、体重の1%前後の減少にすると疲労が少
ない。3%以上の体重減があるとダメージが大きく回復が遅れる。また、熱中症の危険を伴う。
体温・・・舌下で計る。
風邪・・・普通年6回ぐらいひく。選手はもっとひく。唾液中の免疫グロブリンがハードトレーニ
ングによって分泌が低下する。試合の直前、激しいトレーニングをするとひきやすい。きちんと
嗽をする、手を洗うことは当たり前だが、10月ぐらいからインフルエンザのワクチンを打つと予
防できる。2回目は12月に打つ。
・虫歯についても聞く。
・痔を持っていると貧血になりやすい。
・異常に背が高いとマルファン症候群(クモ指症:指趾の異常な奇形的伸長を主症状とし、しば
しば同時に骨、筋、心臓血管系などの中胚葉性組織の発育異常を伴う症候群)も考えられる。
バレーボール、バスケットボール、ハイジャンプの選手に多く見られる。
運動時の血流について
1分間当り 安静時(cc) 軽度(cc) 中程度(cc) 最大(cc)
全 身 5800 9500 17500 25000
脳 750 750 750 750
心 250 350 750 1000
腎 1100 900 600 250
筋 1200 4500 12500 22000
消化器 1400 1100 600 300
皮 膚 500 1500 1900 600
その他 600 400 400 100
安静時1分間に5〜6g、運動をすると最大25gの心拍出量になる。心臓の1回の拍動で70
ccが排出される。1分間に70拍だ から70cc×70拍≒5〜6g 最大脈拍200回×100cc
=20g
・脳は安静時も最大血流量の時も750ccと変わらない。少しでも少なくなると運動は出来なくな
る。
・腎臓は安静時1100ccが最大血流量の時、250ccと最も少なくなり、虚血の為、血尿になり
やすい。
・消化器も安静時1400ccから最大血流量の時、300ccと激減する。虚血の為、腹痛を起こし
やすい。
・心臓は安静時250ccから1000ccと内臓の中で唯一血流量が4倍になる。この時、冠動脈
起始異常があると不整脈を起こし、突然死を起こす。《大変重要なこと》
・筋肉1200cc〜22000ccに増える。全血流量の90%がここに集まる。だから、動けるので
ある。
貧血の問題
・血色素(hemoglobin):赤血球内に大量に存在して酸素運搬能を営む複合タンパク体で、グロ
ビン(globin)とヘム(heme)が結合して成り立っている。ヘムは2個の鉄原子がプロトポリフィン
(protoporphyrin)の4個の窒素原子の中央に座を占めた錯化合物である。一方、グロビンは1
対ずつ(計4個)のポリペプチド鎖からなるタンパク質で、現在その立体構造(三次構造)も、個々
のアミノ酸配列(一時構造)も解明されている。ヘムがグロビンと結合した血色素で酸素分子が
鉄と可逆的に結合できることが特徴で、О2が鉄2価のままで着脱できるこの特性のために、
赤血球は血中を循環して肺でO2を取り込んで組織の毛細血管中でO2を離し、酸素運搬の役
を果たしている。
・正常値:男子16〜18g/dl、女子14〜16g/dl
ヘモグロビンは酸素を直接運ぶ役割をしている。ヘモグロビンが半分しかなければ半分しか
運べない。15gある人と7.5gしかない人では通常50拍でいいところが、100拍打たなければ
ならない。貧血があると、どうしても安静時の脈拍が高くなる。最大心拍数に近くなる。当然運
動機能が落ちる。
☆競技スポーツをする場合、男子14g/dl,女子12g/dlは必要だ。
1)貧血の原因
セントジョンズワートと双極性うつ病
@赤血球が造られない。赤血球は骨髄で造られる。骨髄の赤芽球で造られる。その赤芽球が
おかしくなって造られなくなる。もしくは白血病などで赤芽球の数が少なくなって造れない。
A赤血球の崩壊の亢進・・・脾臓の脾臓機能亢進で赤血球を早く壊してしまう。夜間行軍など
で、足底で血管が圧迫されて溶血を起こす。
B痔、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、外傷などで出血する(女性の月経も含む)。
2)スポーツ貧血
・汗として出て行く。ターンオーバーが早い。スポーツ選手は循環血漿量が増え始めると見か
け上の貧血になる。
・機械的溶血・・・足底で赤血球が壊される。
・異常なストレス・・・十二指腸潰瘍になっているもの、痔出血など。
・スポーツ貧血のほとんどは、完全な脱鉄欠乏性貧血である。
原因として
@鉄の摂取不足(食事の偏り)
A鉄の吸収不足・・・ビタミンCを一緒に摂らないと鉄は吸収されにくい。無機鉄は吸収されにく
い。有機鉄は吸収されやすい。体に10mg入っても、平均で10%しか吸収されない。つまり、
1mgだ。有機鉄は肉に多い。この肉についたヘム鉄は20%ぐらい吸収される。植物性の鉄
は数%である。だから、肉を食べてビタミンCを摂って還元型にして吸収されやすいようにして
おく。
B鉄の喪失・・・通常の成人男性は1日に1mgの鉄が腸管から喪失している。なぜかというと
小腸の絨毛組織のターンオーバーが早くてどんどん剥がれていく。小腸の粘膜の中に鉄が含
まれていて、吸収されずに便の中に1日1mg出て行く。だから、通常の成人男性は1日1mg
の鉄を吸収していれば、貧血にならない。
生理のある女性は1回の生理(5〜7日)で35〜70ccの血液が喪失する。血液10cc当り5
mgの鉄が含まれる。そうすると、1回の生理で30〜35mgの鉄が失われる。1ヶ月に生理で
失われる約30mgと毎日小腸から便中へ出て行く1mg×30日で約60mg失われる。
男性の場合、痔出血が鉄の喪失の大きな原因になる。血液検査をやり過ぎると、採血性の
貧血になる。
一般成人の貧血の割合、男性 数%、女性10%
トップスポーツ選手 男性7〜8%、女性は20〜30%
3)貧血の症状
◇一般成人・・・息切れ、動悸、めまい、頭重感、
・疲れやすい→貧血には赤芽球性貧血、葉酸が足りない貧血、ビタミンB12が足りない貧血
などがあるが、鉄欠乏貧血が圧倒的に疲れやすい。なぜかというとATP→ADPになったとき、
リンが出て行く。そのときのエネルギーで筋肉が収縮(コントラクション)する。ATPを造る時、
鉄がないとできない。ATPサイクルのなかのチトクロームCという酵素に鉄がないとATPが造
れない。だから鉄欠乏性貧血の場合、筋肉が動かない。選手は非常に疲れやすい。鉄欠
乏性貧血があると、筋力も落ちてしまう。持続性がない。風邪をひいた時、黄色い痰が出る。
あれは白血球の死骸、ミエロプロキシリターゼという酵素である。この酵素にも鉄が含まれて
いる。鉄が足りないと白血球もできない。つまり、体の抵抗力がないので、すぐ風邪をひいてし
まう。風邪をひいたら長引きやすい。このように鉄は大変重要な役割をしているので、ヘモグロ
ビンが下がって来たら、すぐ治療の対象になるということだ。
◇選手の場合、上記の症状に加えて、記録の低下や練習についていけないということになる。
今まで診た選手で一番ひどいのは、マラソン選手より競歩の選手で、ヘモグロビンが10〜11
g/dlという状態で、いくら鉄剤を飲んでもヘモグロビンが増えなかった。これは足底からの溶血
があるためではないかと思う。
4)診断
・血清鉄(男62〜216μg、女43〜172μg)の低下、総鉄結合能の増加
・ヘモグロビン(男16〜18g/dl,女14〜16g/dl)の低下
・赤血球(男約500万個、女約400万個/mm3)の低下
・ヘマトクリット(男40〜50%、女35〜45%)の低下
5)治療
・鉄剤とビタミンCだが、吸収率10%なので1日男性10mg,女性20mg、スポーツ選手は20mg
体外へ出て行く。スポーツ選手は1個50〜100mgの鉄剤を服用させる。そのときビタミンCも
摂らせる。タンパク質も沢山摂らせる。
・鉄が減ってしまうと筋肉中のATPが造られないし、白血球のミエロプロキシリターゼが造られ
ないので風邪もひきやすい。心臓にも動悸がしてよくない影響が出る。
・血清フェリチン(貯蔵鉄)が体の中で一番早く減ります。赤血球とかヘモグロビンが正常でも血
清フェリチンが既に低下(男50〜200ng/ml,女25〜100ng/ml)している場合がある。検査に
3000円ぐらいかかるが、年に3〜4回検査をしてもらいたい。鉄欠乏性貧血の診断名をもら
えば、健康保険でできるので是非計ってもらいたい。
・血清フェリチンが下がっていれば、鉄欠乏状態が始まる。筋肉中のATPが造られなくなり始
めている。もしくは白血球中のミエロプロキシリターゼも造られなくなりはじめている。(鉄の多い
食事を摂らせないといけない。また、高タンパク質も摂る)
・次に下がるのが、血清鉄(男62〜216μg、女43〜172μg)、最後に下がるのがヘモグロ
ビン。ヘモグロビンが下がるまで放っておいたら、指導者として問題がある。
・最近わかって来たことに鉄欠乏貧血で鉄だけ飲ませても鉄があがらない。先ほどの競歩の
選手の例だが、これは亜鉛欠乏性貧血というものである。亜鉛は生理作用の広い微量金属で
ある。生体機能をつかさどる種々の酵素活性、少なくとも体の中の300種類以上の酵素活性
に関与しているくらい非常に大きなものである。亜鉛がないと成長が止まってしまうし、皮膚代
謝が悪くなり、生殖機能も悪くなり、骨も伸びない、味もわからない、いろんな異常行動がでる
ということで、亜鉛というのは非常な大きな要素だということがわかって来た。血清亜鉛濃度は
100μg/dlが正常値である。これも健康保険で計れる。鉄だけ飲んでもヘモグロビンが改善し
ない場合は亜鉛濃度の検査を行うとよい。
・関西医科大学の先生のデータであるが、医学部のボート部の合宿の前と後でミネラルを調べ
てみると、鉄・銅は変わらないが亜鉛は下がってしまった。合宿は激しい練習をするので食欲
が落ちたりして亜鉛が減ってしまうことが考えられる。
・日本人は食事で亜鉛を10mgぐらい摂っている。
・亜鉛欠乏でフリーラジカルの増加、免疫力の低下、味がわからない、DNAポリメラーゼが減
るのでタンパク合成が悪くなる。ヘモグロビンもタンパク質なのでヘモグロビンの合成も悪くな
るので、貧血が改善されない。
・貧血の人に鉄だけ,亜鉛だけ飲ませても急激に貧血は改善されない。鉄と亜鉛を一緒に飲ま
せると、ほとんど全員が貧血の改善が見られる。
・このように、亜鉛の重要性がわかってきたので貧血の人には、鉄だけを計るのではなく、亜
鉛も計って亜鉛欠乏をなくしてほしい。最近のサプリメントに鉄剤と亜鉛のサプリメントもあるの
で、貧血の症状のある選手は両方を摂取するようにした方がよい。
・においのついた食品に亜鉛が沢山入っている。日頃30品目の食事を取っていれば、亜鉛が
下がることはない。しかし、下宿や合宿等で通常より少ない品目を取ったり、疲労などで食事
が取れない場合に亜鉛欠乏が起こる。カレーだけなと゛。
熱中症
暑熱環境下で起こる障害の総称をいう。
1)熱痙攣・・・多量の発汗により、塩分・水分が失われ、手足の筋肉や腹筋に激しい痛みを伴う
痙攣が起こる。その他脱力感、嘔吐、腰痛、下痢などの症状が出ることもある。体温上昇な
し、尿量減少。
・処置・・・日陰の涼しく風通しのよいところに移し、横に寝かせ衣服を緩め、0.2%程度の食
塩水を飲ませる。また、痙攣した筋肉と反対に作用する筋肉を収縮させ、その後軽くマッサー
ジを行う。
2)熱疲労・・・多量の発汗により、水分および塩分が不足し、一種の脱水症状で倒れる。脱力
感、めまい、頭痛、嘔吐、時には失神する。体温の上昇はほとんどなく、皮膚は蒼白、べとべと
して冷たく血圧低下。
・処置・・・日陰の涼しく風通しのよいところに移し、足を高くして寝かせ、0.2%程度の食塩水
を飲ませれば通常速やかに回復する。回復しない時は病院へ搬送。また、意識がないときや
呼吸が停止時は人工呼吸を開始すると同時に救急機関へ通報する。
3)日射病・・・熱中症の中でも最も重症。頭部、頚部に直射日光を長時間受けて倒れる。体温
が40℃以上の高体温。発汗は停止、皮膚は紅潮、かさかさ。初めは頭痛、めまい、耳鳴り、
よろめき、徐々に運動障害や意識障害を起こし、うわ言やわめいたり暴れる錯乱状態。失神、
昏睡状態から死に至ることもある。
・処置・・・予後は高体温と意識障害の時間により決まり、いかに早く体温を下げるかがポイン
ト。処置が遅れると、全身の臓器に障害が起こるので一刻も早く救急機関へ連絡し病院へ運
ぶ。搬送中は、頚部、脇の下、腿のつけねなど、動脈が皮膚表面に近い部分をアイスパックで
冷やしながら運ぶ。呼吸が停止している時は、人工呼吸をしながら救急隊を待つ。
・年配者は若い人の20倍ぐらいなりやすい。
・熱痙攣は水分だけとって、塩分が足りないとなる。生理的食塩水やスポーツドリンクを飲ませ
る。それだけで予防が
出来る。
☆県縦断駅伝で、この熱痙攣と思われる症状で、棄権に追い込まれるチームが時々あります
が、山沢先生が指摘される様に監察車からスポーツドリンクの補給が出来るようにすれば防
げると思います。選手自身も前日にアルコールの摂り過ぎや前日のレース後の脱水状態(体
重が3%以上の減少)に気をつける必要があります。
・熱疲労は暑いところにいるため、末梢の血管が拡張してしまって一過性の脳の循環不全にな
ってしまった状態。頭を低くして、塩分の入った水分補給で治る。
・日射病は死ぬ。入院して治療しないと死ぬ。
・熱中症の発生に男女差はない。暑くて湿度が高いと発生する。
暑さと湿度の高さによる熱中症の起こりやすさを表すのにWBGT(湿球黒球温度)を用いる。
屋内:WBGT=0.7×湿球温+0.2×黒球温+乾球温
屋内:WBGT=0.7×湿球温+0.3×黒球温
熱中症予防のための運動指針
WBGT℃ー21 湿球温℃ー18 乾球温℃ー24 ほぼ安全
真菌性発疹
(適宜水分補給) WBGT21℃以下では、通常熱中症の危険は小さいが、適宜水分の補給は必
要である。市民マラソンなどでは、この条件でも熱中症が発生するので注意。
21ー25 18ー21 24ー28
注意(積極的に水分補給) WBGT21℃以上では、死亡事故が発生する可能性がある。
熱中症の兆候に注意するとともに運動の合間に積極的に水を飲むようにする。
25ー28 21ー24 28ー31
警戒(積極的に休息) WBGT25℃以上では、熱中症の危険が増すので、積極的に休息をと
り、水分を補給する。激しい運動では、30分おきくらいに休息をとる。
28ー31 24ー27 31ー35
厳重警戒(激しい運動は中止) WBGT28℃以上では、熱中症の危険が高いので激しい運動
や持久走など熱負荷の大きい運動は避ける。
運動する場合には積極的に休息をとり、水分補給を行う。体力の低い者、暑さに慣れていない
者は運動中止。
31〜 27ー 35〜
運動中止(運動は原則中止) WBGT31℃以上では、皮膚温より気温のほうが高くなる。特別
の場合以外は運動は中止する。
・WBGTを計れる器械が京都のメーカーから出ていて、医科学委員会で常に持ち歩いている。
・汗1g出ると580kcalの熱が放散できる。
・マラソン選手は2500kcalの熱を放散している。1時間当り1000kcalの熱を放散している。1
時間当り2gの汗をか
けば、体温を一定に保つことができる。5kmごとに200ccの水を飲むように指導している。
・体温が1℃上がると心拍出量が3g増える。
・熱放散の適応と運動の適応があいまって暑熱下の適応ができる。
・暑熱下の適応には、汗をかけるようにならないといけない。1時間当り普通の人で暑いところ
にいると1gちょっとで
あるが、暑いところに4〜6週いると1時間当り3.5gぐらい汗をかけるようになる。
・運動による熱射病には横紋筋融解症:DIC(Disseminated Intravascular Coagulation):全身性
血管内凝固;全身の血管内で血栓が出来てそれが詰まって多臓器不全になって死ぬ。体温は
40.5℃くらい(直腸で測定)。
・熱射病を防ぐためには脱水症状にならないようにする。体内の水分がどれぐらい失われたか
は体重でわかる。体重の2%まで水分が失われても直腸温度は上がらない。3%だと直腸温
度が上がる。合宿等では体重減少が1%前後であれば、体のダメージが少なくてすむ。(体重
60kgの選手で600g。)合宿等には10gまで測れる体重計を持っていって起床時に測らせると
よい。
運動誘発喘息
健常者では運動により気管支は拡張し気道抵抗の低下を認め、かつ運動中止後、速やかに
前値に復するが、気管支喘息患者で運動により著しい気道収縮のため気道抵抗が増大し、喘
息発作をきたす病態が知られている。
これが運動誘発喘息(Exercise induced asthma,EIA)である。
運動に伴う換気量の増大のため気道からの熱および水分の喪失、気道上皮の浸透圧の変
化、気道の肥満細胞からのヒスタミン、ロイコトリエン、プロスタグランジンなどの化学伝達物質
の放出、交感神経系の反応性の低下などが、発症に関与していると考えられている。運動後、
数分から30分位で出現する早期反応と、3ないし9時間くらいに出現する遅発性反応がある。
EIAだからといって、運動をやめさせる必要はない。運動によりフィットネスが上昇し、その結
果、運動時換気量の増大を抑制することができ、気道からの熱および水分の喪失を軽減でき
るからである。
EIAへの対処として、適切な運動を選択すること、適切な運動強度とすること、適切な薬物療
法を受けることがあげられ、これらによりEIAを十分にコントロールすることが可能である。
ジョギングはEIAをもっとも引き起こしやすく、水泳はもっとも引き起こしにくい。1〜2分の運動
では起こりにくく、5〜10分の運動で起こりやすい。
また、運動強度に比例して誘発されやすいため、VO2maxが50%以下の運動強度が奨めら
れる。運動の10〜15分前のB2刺激剤の吸入もしくはクロモリン製剤の吸入もしくはクロモリ
ン製剤の吸入が有効である。十分な準備運動をすることもEIAの予防には重要である。
EIAが起きたときはB2刺激剤の吸入を行わせる。B2刺激剤の内服薬は一般的に不要であ
り、かつドーピング行為であるので、スポーツ選手には投与しない。
水泳は非常にいい。陸上競技でも400mぐらいまでなら1分で終わるから問題ない。5分くら
いやると起こってくる場合がある。中・長距離選手には向かない。短距離選手には問題ない。
・VO2max:活動により消費される酸素量が最大酸素摂取量に占める割合を表す指数
過換気症候群
換気亢進の機序の1つは生体内で産生されたCO2を排出するためであり、運動や発熱などで
見られる。この代謝要求を上回る呼吸が発作性に出現し、そのための呼吸性アルカローシス
に伴う症状が、不安・緊張などをさらに強めるという悪循環を形成する機能的な病態が、過換
気症候群である。数々の器質的疾患によっても過換気発作に伴う同様の症状を認めるが、本
症は器質的要因を伴わない。健常者では意識的な過換気の持続は困難であるが、本症例で
は過換気を停止できなくなる。南北戦争で兵士が戦場の不安や緊張などで動悸や息切れをお
こしたことか゛知られ(Da Costa症候群)、また過度の疲労などでも発症するとされる。心理的な
要因が加わるため、出現する症状の解析は困難だが、多くはCO2血症、呼吸性アルカローシ
スによって説明される。呼吸器症状では、過換気・息切れ・空気飢餓感、循環器症状では動
悸・頻脈・胸痛、神経系ではめまい・失神・頭痛・視力障害・手指振戦、骨格筋では四肢末梢の
しびれ感・知覚異常・口周囲のしびれ感・テタニー、消化器症状では腹痛・悪心、その他発汗・
不安・緊張・衰弱感など、症状は多種多様である。発作中の心電図所見として頻脈のほか、T
波逆転・STの軽度低下・QT延長などが認められ、狭心症と間違えられることもある。
低CO2血症および呼吸性アルカローシスにより、
1)O2解離曲線は左方へ移動し、O2はヘモグロビンより離れにくくなる。
2)そのため筋などの末梢組織は低酸素状態となる。
3)脳血管攣縮がおこり脳血流量が減少する。
4)血清無機リンの低下、蛋白結合型カルシウムの増加、フリーのカルシウムイオンの低下など
の機序が働くためである。
問題ない。しかし、1度起こると2度3度と起こる。
起こった場合、ペーパーバーフ゛リーディングといって紙袋を口にあてがって、再呼吸により
血中の炭酸ガス濃度を上げて症状を取り去ることが出来る。大切なことは、精神的なストレス
によって症状が起こるので、何も心配ないと安心させてあげることが大切。
オーバートレーニング
オーバートレーニングは指導者や選手に最近理解されるようになった病態で、トレーニング
負荷と回復、運動量と運動能力、ストレスとストレス耐用力のアンバランスをいう。多くは過剰
なトレーニング負荷によって、運動能力や競技成績が低下して短期間には回復しなくなる状態
で、一種の慢性疲労と考えられる。オーバートレーニングの病態解明のため、オーバートレー
ニングとなるような強度の高いトレーニングプログラムを作り、それを選手に行わせせると、競
技シーズンを棒に振ってしまうこととなるため、科学的なアプローチを行いにくく、知識は経験
的なものが主である。アスリート一人一人の回復能力、運動能力、ストレス耐用力が異なり、ま
たオーバートレーニングの原因は多因子で、内因� �、外因性の要因が複雑に絡み合ってい
る。
オーバートレーニングは短期オーバートレーニングと長期オーバートレーニングに分類され、
予後は後者で悪く、オーバートレーニング症候群と言われる。
短期オーバートレーニングはトレーニング疲労、競技力の低下、VO2maxの低下などにより特
徴づけられ、数日から2週間程度の休養で回復する。
このような状況は、低調な競技成績を練習量の増加により改善させようとするコーチや選手の
反応として良く経験されることであるが、不完全な休養やトレーニング過負荷により、オーバー
トレーニング症候群に容易に移行しやすい。このような状態から完全な回復まで数週間から数
ヶ月かかるとされる。
症状としてトレーニングやトレーニング以外の日常生活の疲労蓄積による困憊、抑鬱状態、筋
肉痛や筋肉のこわばりの持続、競技能力の低下が長期にわたり続くことである。種々の内科
的、整形外科的、精神科的疾患を否定することが肝要である。アスリートにおける疲労は非可
逆的障害を伴う過度の運動より体を守るための危険信号と捉えるべきである。
オーバートレーニング症候群を臨床症状よりバセドー病型(古典的、交感性)とアジソン病型
(現代的、副交感性)の2つに大別できる。
前者は稀であり、あるとすればスプリンター、ジャンパーなどの無酸素運動を主に行う選手で
ある。
エンデュランスアスリートにおこるオーバートレーニング症候群は圧倒的に後者である。訴えは
疲れる、練習についていけない、記録が低下した、などが多い。
オーバートレーニングには原因が必ずあり、大きすぎるトレーニング負荷、過密な試合スケジ
ュール、栄養不足、不完全な休養、仕事、勉強、テストなどの日常生活でのストレス、最近かか
った風邪などの病気等について検討する必要がある。
また、オーバートレーニングに陥りやすいアスリートは強迫性格と粘着性格であるといわれ、必
要以上のトレーニングにより心身の疲労をきたし、抑鬱状態となり易いことが報告されている。
重症例では精神科的もしくは心理学的アプローチや薬物療法も必要となることもある。
オーバートレーニングの処置は原因の除去、充分な休養、そして計画的にトレーニングを元
に戻していくことで、休養期間は長距離やマラソン選手では軽症で2−5週間、重症で3−6ヶ
月間とされる。
オーバートレーニングの予防には指導者がまずオーバートレーニングを認識することであり、
トレーニング負荷を短期的、長期的に周期化することが重要である。再発防止のためにも、少
なくともアスリートの起床時心拍数、体温、体重をコーチは必ず把握し、体調についての訴えを
聞くことである。
オーバートレーニング症候群の客観的な早期検出法として血中フリーテストステロン/コル
チゾール比が有用との報告もあるが、今後の検討が必要である。
オーバートレーニングを捉える方法で
POMS(Profile Of Mood State)がある。
1.tension:緊張
2.depression:抑うつ
3.anger:怒り
4.vigor:元気
5.fatigue:疲労
6.confusion:混乱
以上6項目の状態を一週間100項目くらいで自分の全体的な感覚をチェックして図形化したも
の。
バーンアウトやいろんな障害に悩まされない為に、1997年12月に中央審議会及び保健体育
審議会答申の指摘を踏まえた「中学生・高校生のスポーツ活動に関する調査研究者会議」の
検討結果について記述させていただきます。
運動部における休養日等の設定例
中学校の運動部では、学期中は週当り2日以上の休養日を設定。高校の運動部では、練習
試合や大会への参加など、土曜日や日曜日に活動する必要がある場合は、休養日をほかの
曜日で確保。土曜日や日曜日の活動については、子供の[ゆとり]を確保し、家族や部員以外
の友達、地域の人々などとより触れ合えるようにするという、学校週5日制の趣旨に適切に配
慮。学期休業中の活動については、上記の学期中の休養日の設定に準じた扱いを行うととも
に、ある程度長期のまとまった休養日を設け、生徒に十分な休養を与える。なお、練習は効果
的に行い、長くても平日は2〜3時間以内、土・日に実施する場合でも3〜4時間以内に練習を
終えることを目処とする。長期休業中の練習もこれに準ずる。
小学生期の陸上競技トレーニング
小学生陸上競技普及推進プロジェクトでは、小学生期の陸上競技トレーニングに関して、以下
のように指針をまとめています。
@小学生期に陸上競技の基本となる動作やスキルが正しく指導されることは、子供たちの運
動能力を向上させ、健全な心身の発達を促す上で望ましいことである。
A小学生期には、指導の過程で、心身ともに過重な負荷を与えるようなことがあってはなら
ず、スポーツを楽しむ心を養うように配慮されることが最も大切である。
B子供達がいろいろなスポーツスキルを段階的に修得できるように心がけ、陸上競技のもつ
多様性に親しむ様に指導し、専門性に頼ることのない様に注意することが肝要である。
C持久的運動は、800〜1000mの距離にとどめ、それ以上の距離については子どもの能力に
合わせて無理のないよう指導する事が望ましい。子どもは長距離・長時間にわたって走ること
ができるが、小学生期には、あまり長い距離(5km以上)をトレーニングすることは好ましくない。
D小学生期の陸上競技の練習は週1〜3回が適当であり、1回の練習は1時間30分を限度と
すべきである。
E勝利中心主義とならず、陸上競技を中心としたスポーツの楽しさを経験させる立場に立った
指導が行われることが必要である。
F小学生の指導にあたる人は十分な研修を積む必要がある。このため指導者研修の機会が
設けられなければならない。
☆毎年沢山の途中棄権者を出す蔵王坊平クロカン・ジュニアクロカン駅伝などは、熱中症対策
とジュニアのトレーニングの仕方、体調不良(夏休みの行事等で睡眠不足、風邪気味、下痢な
ど)、準高地であることを考慮して出場させていただきたいと思います。
高地トレーニング
高地トレーニングなしには大きな国際大会での長距離やマラソンでは上位入賞はほとんど困
難であるという理解のもと、日本陸連では平成2年より高地トレーニングをトレーニングの一環
として取りいれてきた。第1回めは中国雲南省昆明市(海抜1886m)で行われ、以後アメリカ
のコロラド州(海抜2000m前後)で行われた。実業団チームも高地トレーニングを取り入れて
いる。
高地では平地より大気圧が低下している。平地での酸素分圧は150Torrであるが、高地で
の気圧が0.8気圧とすると、酸素分圧は120Torrに低下する。注意しなければならない点
は、高地でも酸素濃度は平地と変わらず約2.1%で、変化するのは大気圧である。
高地トレーニングの目的は低酸素分圧下で持久トレーニングを行うことにより、末梢組織、特
に筋肉細胞内の低酸素状態をより増強させ、平地と同じ運動量であっても、強制的に相対強
度の高い運動とし、末梢組織での酸素利用の効率化および呼吸循環機能の亢進をはかるこ
とである。トレーニングに望ましい高度は2000−2400mで、3−6週間の滞在が適当と考え
られている。最大酸素摂取量は高度上昇に伴い低下するため、平地より練習強度を少し落と
す必要がある。
高地トレーニングの生理学的効果として、赤血球数の増加、高色素性、2'3−DPGの増
加、一回心拍出量の増大、筋肉細胞における解糖系抑制、脂質代謝亢進、グリコーゲンの節
約化などが知られている。
しかしながら、高地トレーニングでは換気量の増大に伴い脱水傾向に陥リ易いこと、オーバ
ートレーニングになりやすいこと、競技者の健康状態や体力レベルが良好でないと逆効果にな
ること、などの課題があり、また実際の競技成績と結び付けるには、コンディショニングの維持
や種目に応じたトレーニングの期間、内容などの検討が更に必要である。
婦人科の問題(体脂肪と月経異常)
女性が痩せすぎると月経がなくなることが知られているが、そのまま放置すると多くの問題が
生じる。
1.難治性...無月経を長期間放置すると難治性になる。
2.疲労骨折...長期間の無月経は低エストロゲン状態の持続であり、骨塩濃度の低下をき
たし、骨が脆くなる。繰り返すトレーニングにより、疲労骨折を起こしやすくなる。
3.妊孕性...現在の選手は思春期から成熟期前半の若い女性が大部分であることから、長
期間の運動性無月経が子宮の未発達などにより妊孕率低下の恐れがある。
対策:体脂肪22%以上で排卵性月経がみられ、周期的月経を維持するには17%は必要とい
われている。競技の特性から体脂肪をこの数字まで上げられない場合は、ホルモン剤(卵胞ホ
ルモン、黄体ホルモン)の投与を受けるとよい。
テーピングについて
テーピングはスポーツ活動中の怪我の予防、救急処置、再発予防を目的としています。しか
しながら、テーピングだけで怪我の予防、救急処置、再発予防ができるわけではありません。
間違ってもテーピングさえすれば大丈夫、と考えない様にしてください。
テーピングはあくまでも二次的、三次的なものと捉えてください。
予防に関して言えば、まず筋力、柔軟性などの体力強化などを行うことが第一であり、救急
処置は、受傷直後の現場での適切な判断、RICE処置をしっかりと行う必要があります。
再発予防では、リハビリテーション、リコンディショニングなしに再発を予防することはできま
せん。それならばテーピングなど必要ないのでは、と考える人もいると思いますが、予防に関し
て言えば、足首、手首、指の関節の怪我は体力強化だけでは怪我の予防は難しく、例えばテ
ーピングのような外部からの何らかの保護が必要となり、また怪我をした後、損傷を受けた組
織が元通りの強さを回復するまでにはかなりの期間が必要になります。このため、リハビリテ
ーションやリコンディショニングをしっかり行って比較的早期に運動を再開できたとしても、組織
の強さは完全に戻っていないのです。
再発予防としてテーピングを行う場合、受傷後できる限り早くドクターの診察を受け、怪我の
種類、程度を確認し、さらにその後怪我の回復を定期的にチェックし、その上でテーピングを
行うようにしたほうがよいでしょう。
昨日足首を捻挫して、今日テーピングして運動しようと思ったら、全く効果がなかったというの
は当たり前です。ましてやなぜ痛いのか明確な原因がわからないままテーピングしても、効果
がないのは当たり前です。もし効果があったとすれば、それは多分に精神的なものが大部分
です。
運動に関して、テーピングの適用時間は3〜4時間です。
キネシオテープについて
調整テープとも言われ、貼付部分の筋肉を保護、調整し、快適な状態に順応させるテープ
のことです。筋肉の運動をサポートし、そのバランスを保ちます。運動前に貼る事により、その
部分の疲労度を緩和することができるようです。
引用・参考文献
1)トレーナーからのアドバイス 陸上競技社
2)後 藤 真 二、ウォーミングアップ、コーチング・クリニック2001.1
3)デビット・マーティン著、中長距離ランナーの科学的トレーニング、大修館書店
4)栗山節郎編、新・ストレッチングの実際 南江堂
5)山澤文裕、スポーツ医学と内科、日本陸連トレーナーセミナー
6)熱中症予防のための運動指針、コーチング・クリニック1998.3
7)運動部における休養日等の設定例、コーチングトレーニング1998.4
8)小林寛道、小学生期の陸上競技トレーニング、
9)目崎登、婦人科の問題(体脂肪と月経異常)、日本陸連トレーナーセミナー
10)斎藤伴男,テーピングについて,山形県鍼灸マッサージ三団体共催研修会
0 件のコメント:
コメントを投稿